2022年11月6日-18日 エジプト・シャルム・エル・シェイク
写真 350.org
2022年の夏に起きた、パキスタンでの大洪水は国土の1/3を飲み込み、1,700人近くの命を奪いました。
これだけの被害にもかかわらず、日本ではパキスタンでの大洪水に関する報道はすぐに止んでしまいました。
このように、MAPA(気候危機の影響を最も受ける人々と地域)の人々の生活や命は軽視されているのです。
私たちは、気候変動の最前線で闘う活動家の声を届けるために、COP27に向かいました。
「なぜ、日本は日本で受け入れられないような汚染をもたらす石炭火力発電所をバングラデシュで建設するのですか?」
私たちは、2021年に、日本の「援助」で進められる石炭火力発電所の建設に反対するバングラデシュの活動家たちと出会いました。
バングラデシュで進められる「マタバリ石炭火力発電事業」の問題は、日本ではまったく報じられていなかったように、日本企業や政府の加害は隠されてしまっているのです。
隠された被害を可視化する必要がありました。
2022年11月6日、気候変動対策をめぐる国際会議・COP27がエジプトで開催されました。
例年、COPでは会場外を埋め尽くす数万、時には数十万の若者や先住民、現地市民の姿がありました。なかなか進まない気候変動対策の交渉に対して、世界の人々が怒りと焦りの声を上げ、「世界のリーダー」たちにプレッシャーをかけてきたのです。
しかし今回のCOPでは、会場外を埋め尽くす若者や先住民、現地市民の姿はありませんでした。
かわりに大きな存在感を持っていたのは、ライフル銃を持った警察官の姿とプロパガンダの数々でした。
開催地のエジプトでは、言論の自由や結社の自由といった基本的な人権が制限されていたのです。
COP会場外でのデモは原則禁止で、ジャーナリストは許可なしに会場外の撮影を許されなかったのです。
私たちもホテルでインタビューの撮影を行っていたら、現地警察に高圧的に止められました。それ以降インタビューの撮影は、会場内とホテルの寝室で隠れて行うしかありませんでした。
私たちはグローバルサウスで活動することのリアリティをひしひしと感じました。
映像に映っているアブデル・アルファター・エル=シシ大統領は、2014年にクーデタで政権を掌握して以来、「アラブの春」以降の民主化運動を弾圧し、今日まで軍事独裁体制を築いてきた。
現在でも推定6万人の活動家やジャーナリスト、一般市民が薄暗い監獄に収監されています。開催直前にも環境運動のFacebookグループに参加した現地の環境活動家が逮捕されるという事件が起き、私たちは現地では細心の注意を払わなければならなかった。
例年であればCOP会場のゲート前で座り込みをしている活動家の姿があるはずですが、今回はゲートを監視する武装警官の姿しかありませんでした。
そして武装警官によって厳重に守られた会場の中では、「世界のリーダー」たちがなかなか進まない議論を行っていました。
最初の一週間はアジェンダ策定、つまり「何について話し合うか」についての話し合いに時間を費やしました。
このようにCOPでは各国交渉官たちが机を囲み、合意文書を一文一文検討しながら会議を進めているのです。
淡々と「異議あり」という声が出て、反対が出た文章は赤く塗りつぶされ削除されました。
このような会議をCOP会期中には大小いくつも行っているのです。
これがグレタさんはじめ、世界の活動家たちが「COPはムダなお喋りだらけ」という理由です。
武装警官によって厳重に警備されていた会場内の展示場では、各国の企業がアピール合戦を繰り広げました。
2021年にスコットランド・グラスゴーで開催されたCOP26で、グレタさんは「COP26は盛大なグリーンウォッシュの祭典になり、失敗に終わった」と痛烈に批判しました。今回は前回以上に化石燃料産業ロビイストの姿が目立ちました。
日本企業も多く出展しており、例えば、三菱UFJ銀行がCO2排出量削減のための金融機関の貢献をテーマにイベントを行なっていました。
しかしその母体である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2016年から2020年までの間にフランスの石油メジャー・トタル社に約11億米ドルを融資してきました。そのトタル社は、COPの会場で、そもそも気候変動対策をアピールすることすらせず、積極的に化石燃料の活用を宣言しているような企業です。
国際NGO・Global Witnessらの調査によると、今回のCOP27には史上最多の636人の化石燃料産業ロビイストたちが参加しました。日本からは少なくとも18人の大商社や銀行などの関係者たちが含まれます。
COP27では、Coca Colaが公式スポンサーになりました。国際環境NGO・Greenpeaceなどによって、Coca Colaは世界最大のプラスチック汚染者として批判されています。
会場ではCoca Colaが用意した清涼飲料が配られていました。
例年COPでは、世界各国の「リーダー」たちの議論にメディアの注目が向かいます。
しかし現実には、変化は会場の外で起こっているのです。というのも会場の外で活動家たちが、気候変動対策を遅らせる企業や政府に対抗するために次にどんなアクションをできるのか、戦略の議論を進めていました。私たちもホテルで議論に加わり、フィリピンやウガンダ、イギリスといった国々の活動家たちと、国境を超えて汚染を生み出す企業の活動を止めるために連携を深めました。
このように活動家たちはCOP27の期間中に、武装警察に守られた化石燃料産業に対抗するために、水面下で議論を進めていきました。警察国家エジプトで活動の制約があるなかでも、私たちは汚染企業と各国政府に対して抗議の声を上げるために着々と準備を進めていきました。活動家たちによる反撃の始まりでした。
足立心愛、シイェ・バスティダ、ミカエラ・ローチ(左から順に)
イナマリア・シコンゴ
COP27の4日目、日本は「化石賞」を受賞しました。2019年から2021年の2年間だけで、日本は約1.6兆円の公的資金を石油や天然ガスなどの化石燃料に拠出しました。それにより日本は、化石燃料事業への世界最大の公的支援者となりました。
これは単なる「不名誉な話」では済まされません。むしろこのことが意味することは、世界各地で日本の支援による化石燃料事業が、多くの生活や命を奪ってきたということです。
11月9日・COP4日目
三菱UFJフィナンシャル・グループへの抗議アクションを皮切りに、私たちのCOP27現地での抗議活動が始まりました。
ウガンダ・タンザニアで、人類史上最長の原油パイプライン(EACOP)が建設されようとしています。
世界の他の銀行は、EACOP事業への不参画を表明しているにも関わらず、三菱UFJフィナンシャル・グループは、EACOP事業に参画するのか、立場を明らかにしていません。
私たちは、ウガンダとタンザニアの活動家たちと一緒に、三菱UFJフィナンシャル・グループ・河野正道委員に、迫りました。三菱UFJは、COP27の日本パビリオンで講演をしていました。
アクションを行った気候正義プロジェクト・メンバーの足立心愛がブログ記事を書いています。
気候危機の影響を最も受ける国々のひとつ、バングラデシュでは現在、日本の援助で石炭火力発電所の建設が進められています。
私たちは、バングラデシュの活動家、ファルザナ・ファルク=ジュムさん、フィリピンの活動家、ミツィ・ジョネル=タンさんと一緒に、この問題について環境省の職員を問い詰めました。
国際協力機構(JICA)は現在、バングラデシュで援助と称して石炭火力発電所の建設を支援しています。マタバリ石炭火力発電事業です。
ファルザナさんが、発電所建設によってすでに引き起こされている被害について語りました。
そして私たちはマタバリ石炭火力発電事業をやめるように求めました。
しかし気候変動対策担当のJICAの職員は、個別の事業については答えないと繰り返すのみでした。
日本各地のFridays For Futureは、東京・住友商事の支社と各都市の支社前で、一斉に抗議を行ないました。
住友商事は現在、気候危機の影響を最も受ける国々のひとつバングラデシュで、マタバリ石炭火力発電事業を進めています。
エジプト現地での活動の困難さがあるなか、日本国内で活動するメンバーと協力し、住友商事が行う事業の実態と問題点について、社会に向けて訴えました。
名古屋では、Fridays For Future Nagoyaと連帯する市民のみなさんが集まりました。
各企業の東北地方での拠点となっている仙台では、Fridays For Future Sendaiのメンバーが住友商事に抗議をしました。
住友商事の本社が位置する東京では、Fridays For Future Tokyoと環境NGOのメンバーが一緒に抗議アクションをしました。
今回のCOPで最も大きな争点のひとつとなったのは、気候変動の影響をすでに受けてきたグローバルサウスへの補償の問題です。グローバルサウスの人々は、「賠償」を求めてきたのです。
一方で、アメリカや日本といった、これまでたくさん二酸化炭素を排出してきたグローバルノースの国々は、グローバルノースへの補償を頑なに拒んできました。日本は、これまで「賠償」ではなく、「援助」によってごまかそうとしてきました。
しかし責任が不明瞭で気候危機の影響を受ける最前線のコミュニティに行き渡らないような「援助」ではなく、最前線のコミュニティの人々が自分たちのコミュニティを再建していくための「賠償」を求めているのです。
Fridays For Futureでも「気候賠償」を求めて声をあげました。
私たちはMAPA(気候危機の影響を最も受ける人々と地域)の活動家たちとの交流を水面下で進めていきました。そこで見えてきたのは、各地での強権的な政権による環境活動家への弾圧と、弾圧にも臆せず闘う環境活動家たちの姿でした。
基本的人権が制限されているエジプトでの活動と、MAPA活動家たちが活動をするグローバルサウス各地での状況が重なりました。
Never Again. Never Forget. フィリピンのアラブ・ミラソルさんのシャツに書いてあったのは「二度と繰り返さない。絶対に忘れない」というメッセージでした。
2022年はフィリピンの独裁者マルコスが戒厳令を敷いて、民主的権利を制限してから50年の節目の年でした。
そして2022年には父の時代の「栄光」をアピールし、マルコスの息子が大統領として当選したのでした。
アラブ・ミラソルさん(フィリピン)
アラブ・ミラソルさんは環境活動家・先住民活動家の一家に生まれました。彼女の幼い頃に、先住民の土地を守っていた活動家の父が「行方不明」になりました。
フィリピンでは国家による環境活動家・先住民活動家の強制失踪が繰り返されています。このような状況を変え「気候正義」を実現するために、アラブさんは活動を行ってきました。
アラブさんは所属する若者気候活動家のグループ・YACAPで、土地を取り返す農民の闘いを支援しています。
フィリピンでは、大土地所有者が小作人を搾取してきた歴史があるなか、小作人たちが自分たちの耕している土地を大土地所有者から取り上げて、自律的な農業を営む実践が行われています。
ミツィ・ジョネル=タンさん(フィリピン)
フィリピンで活動するミツィさんは、彼女の国は気候危機を止めるために活動をする人々にとって世界で最も危険な国のひとつであるといいます。
というのも政治家が活動家への攻撃を煽り、軍隊や警察、ギャングなどが活動家に暴力をふるっているのです。
彼女も2017年に警察によって不当に拘束された経験があります。
国際NGO・Global Witnessによるとフィリピンでは、2013年から2021年までの8年間連続でアジアで最も多くの環境活動家が殺害されました。
ソハヌール・ラフマンさん(バングラデシュ)
2021年の夏にマタバリ石炭火力発電事業の問題をソハヌールさんから教わってから、私たちは彼と一緒に運動を進めてきました。COP27の会場で初めて対面で会いました。
その時に彼は、「君たちはマタバリ石炭火力発電事業の問題に一緒に取り組んでくれた。次は、パイプライン建設が進むタンザニアやウガンダで弾圧されている活動家と連帯していこう」と言っていました。
強権的な政権の下で闘っているグローバルサウスの活動家は、同じような状況にある他国の活動家と一緒に闘ってきました。
2022年の夏にパキスタンを襲った大洪水は、約1,700人もの命を奪いました。
なかでも甚大な被害を受けたのは、民族マイノリティ・バロチ人が暮らす地域です。COP27にはバローチ人活動家も来ていました。
彼ら彼女らの暮らすバローチスタンでは、パキスタン政府とグローバル企業が結びついて、豊富な地下資源の開発を進めています。
同時に地域の人々は資源開発による土地収奪と環境汚染に苦しめられています。
さらに2021年にバローチスタンのFridays For Futureのメンバーが、この問題を訴えるために気候マーチを行おうとしたところ、警察に介入され取り調べを受けました。
バローチスタンから来た活動家たちは、名前や顔を明かさない条件で、現地での迫害と環境破壊の実態について語ってくれました。そして弾圧があるなか、COPという気候サミットのみが実態について語る場だと言っていました。
国際NGO・Global Witnessの調査によれば、2021年には世界で200人の環境活動家が殺害されました。
なぜ、気候危機が進むなかで、気候変動を止めるために闘う活動家たちが殺されているのでしょうか?
実は、気候危機の進展と環境活動家への迫害には強い繋がりがある問題なのです。というのも化石燃料企業は、さらなる利益を求めて開発を行い、先住民コミュニティを破壊し、彼ら彼女が守ってきた自然環境をも破壊しているのです。そして環境破壊を止めようと闘っているのがグローバルサウスの環境活動家や先住民活動家なのです。
さらにそれらの開発プロジェクトは日本といったグローバルノースの国々の企業によって支援・推進されているもの少なくありません。
COP27の5日目に行われたこのアクションでは、エジプトで不当に拘束されている政治犯を象徴する白服に身をまとい、言論封殺を批判するために白い布を口元に巻きました。活動家たちが、これまでに殺害された環境活動家・先住民活動家の名前を読み上げました。
アラー・アブドゥルファッターフ
2011年に、アラブ各地の人々は民主主義を求めて、街を埋め尽くしました。チュニジアで火がつき、エジプトに広がった「アラブの春」は、やがてはアラブ各地で圧政に苦しむ人々を立ち上がらせました。
エジプトのエンジニアであったアラー・アブドゥルファッターフさんは、エジプトの人々と共に、ホスニー・ムバーラク大統領(当時)の体制に抗議しました。そのことを理由に、アラーさんも逮捕されました。
アラーさんを含めたエジプトの6万人の政治犯は、COP27が開催されている最中も拘束され続けていました。
COP27の会場では、アラーさんの妹・サナーさんはじめ、世界の活動家たちがエジプト政治犯の解放を求めて声をあげました。
クリシュナ(フィリピン・左から2番目)
クリシュナさんの住むコミュニティでは、彼女の生まれた1997年から、地域での化石燃料事業に反対してきました。そのおかげで彼女の住むネグロスオクシデンタル州にはひとつも石炭火力発電所はありません。
その後、彼女のコミュニティでの開発を狙うサンミゲル社は、石炭火力発電所のかわりにガス火力発電所の建設を推し進めようとしました。しかしこれもコミュニティの大きな反対にあい、COP27が開催期間中に、サンミゲル社は開発の許可申請を取り消しました。
*サンミゲル社は、フィリピン最大の財閥・サンミゲル財閥の中核企業で、エネルギーやインフラを含めフィリピン経済のさまざまなセクターで影響力を持つ。
シャマイラ・ラヴィーニュ(アメリカ・ルイジアナ州)
シャマイラさんは、アメリカ・ルイジアナ州の「がん回廊」と呼ばれる地域の活動家です。この地域が「がん回廊」と呼ばれるのは化学工場や精油工場が密集しており、工場の汚染によって地域住民の間では高い確率でがんが発症しています。
黒人が多数を占める地域で、汚染を生み出す工場施設が押し付けられ、何代にも渡って地域住民や労働者は公害に苦しめられ続けたのです。これが「環境レイシズム」の実態です。
そして現在汚染を垂れ流している主要な企業は、肥料などの化学製品を扱う日本企業・デンカです。
シャマイラさんたちは、汚染を生み出すような企業に頼らなくても豊かに暮らせる地域を目指して、コミュニティの再建を行っています。
実際の変化は国際会議の場で生まれるのではありません。個別の汚染事業と闘う地域コミュニティから変化が生まれているのです。今後COPといったCOPといった国際会議はますます、化石燃料産業の延命のために使われていくなか、個別の汚染事業との闘いがますます重要になっていきます。
人権抑圧の続くエジプトでの気候サミットの開催は、これまでとは大きく異なりました。COP27の会場の外では抗議デモが原則禁止されているなかで、私たち活動家たちはどうやって気候変動を止めるために声を上げられるのか悩まされました。
日本からCOP27へと向かった私たちはグローバルサウスでの活動のリアリティを痛感したのです。
それでも私たちは、水面下で国境を超えた繋がりを作り、大きな声を上げました。
今後世界では、目先の利益を求める化石燃料企業と、強権的な政権が結びついて、さらに民主的な空間は縮小していくことでしょう。
そんななかでも私たちは気候正義のために闘い続けなければなりません。民主主義と気候変動のダブルの危機で、私たちはどうやって闘っていけるのか?大きな課題を突きつけられました。
しかしそれと同時に、今後一緒に闘うたくさんの仲間が出来ました。その多くは、激しい弾圧のなかでもすでに闘ってきたグローバルサウスの同世代でした。
民主的な空間が縮小する世界で、今後ますます重要になっていくのは、国境を超えた活動家たちの繋がりです。国境を超えた活動家のネットワークこそが、マタバリやEACOPといった各地で引き起こされている化石燃料事業の問題に立ち向かえるのです。
誰かの声が封殺されることのない世界を目指して、誰かの命が軽視されることのない世界を目指して、私たちは次の一歩を踏むのです。
2022年11月18日、2週間の闘いは幕を下ろし、次の闘いが始まるのでした。
©︎ 2022 The Climate Justice Project